ブログ 育毛

第30話 母の髪

病室の白は、どこか冷たい光を帯びていた。蛍光灯が静かに唸り、消毒液の匂いが鼻を刺す。トモユキはベッド脇に立ち、母の手を見下ろしていた。その右手には、小さなビニール袋が握られている。中には、束ねられた“髪”。わずかに褐色がかった細い毛が、光を受けて鈍く輝いていた。

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第29話 影をなぞる指

夜の風が、屋上の鉄柵を鳴らしていた。「兄貴……?」ユウタの声が、わずかに震えていた。その言葉が、トモユキの脳の奥で何度も反響した。美香は階段の下から顔を出し、ユウタを睨むように見上げていた。「ユウタ、降りてこないで」「なんで? なんで兄貴がここに?」「お願い、今はダメ」

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第28話 風のない午後に

ユウタは、あの夏から少しだけ大人びていた。髪は相変わらず細く、前髪のあたりがうっすらと透けているのに、本人はもうそれを隠そうとしない。代わりに、柔らかく笑うようになっていた。「隠したって、風が吹いたらばれるっしょ」ある日、駅前の喫茶店でユウタはそう言った。トモユキはコー

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第27話 影を渡る声

夜の空気は薄くて冷たいフィルムのように、街を包んでいた。ベランダの柵に挟まれていた紙切れを指で撫でると、紙の角が指先に冷たく当たった。「風は感じましたか?」——ユウタの字。シンプルだが震えが残るその筆致が、夜の静けさの中で妙に鮮やかに響く。トモユキは、もう一度窓の外を見

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第26話 鏡の中の少年

 その夜、トモユキはなかなか眠れなかった。 枕元に置いたスマートフォンの画面が、何度も勝手に光っては消える。通知など来ていないのに、まるで誰かが「まだ起きてるか?」と呼びかけているようだった。 ユウタの笑顔が、頭の奥で静かに反芻されていた。 ──風を感じました。 昼間、

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第25話 弟の髪、僕の影

第25話 弟の髪、僕の影日曜日の午後、空は淡く滲んだ灰色だった。 美香から「弟のことで少し相談に乗ってもらえませんか?」とメッセージが届いたのは、前日の夜だった。 短い文面だったが、どこか切実さを含んでいた。 ──あの時の“相談”って、これだったのか。 ぼんやりそう思い

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第24話 光の下の告白

翌日の朝、トモユキは、昨夜のあの視線を何度も思い返していた。窓の外を見上げていた赤いネクタイの影。あれが幻覚だったのか、それとも現実だったのか。眠れぬ夜を過ごしたせいで、目の下にうっすらと影ができている。出勤すると、デスクの上に一枚の付箋が置かれていた。「昼休み、屋上で

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第23話 声の重み

朝、トモユキは目を覚ますと、まず枕を触った。指先に残る細い毛の感触が、すぐに胸をざらつかせる。「……また抜けたか。」小さな呟きは、ため息に飲み込まれる。洗面所に立ち、鏡に映る自分を見つめると、前髪の隙間から地肌がうっすらと覗いているのが分かった。今日は社外の人も集まる合

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第22話 美香の視線

スマホの画面に浮かぶ一文──「今日、偶然見たんだけど……あなた、ジムにいた?」心臓が跳ね上がった。手のひらが汗ばみ、スマホを落としそうになった。あの夜の汗に濡れた自分の姿。額に張りついた髪、照明で透けて見えた頭皮。美香は、あれを見てしまったのか。「やばい……」

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第21話 「鏡に映る汗と髪」

会社帰りの電車。トモユキは、バッグの中の小さな紙を何度も指でなぞっていた。それは駅前のスポーツジムの体験チケット。先輩の佐伯と約束したあの日から、ずっと気になっていたが、ようやく今日、思い切ってジムに足を踏み入れる決意をしたのだ。「血行をよくすれば髪にもいいって言うしな